術後の心原性脳梗塞を予防するには、かつては血液を固まりにくくする抗凝固剤を服用するしか手段はなく、ずっと薬を飲み続けなければならない患者さんの負担は大きなものでした。また、薬で人工的に血液をサラサラにすると血が止まりにくくなるため、患者さんに胃潰瘍からの出血や交通外傷による内出血など、出血に関するアクシデントがあった時には重篤な状態になってしまうリスクが高いといえます。
そのため、どうにかして心臓手術で脳梗塞を減らす方法はないものかと考えました。欧州ではすでに脳梗塞の予防のために左心耳を処置する動きがありました。また、ほかの専門家などからさまざまなアドバイスをもらい、血栓の75~90%が形成される左心耳に行き着いたのです。左心耳は、いわば盲腸と同じようなもので、取り除いてしまっても問題はありません。普段の心臓手術のついでに比較的容易に実施できるうえ、予防効果も明らかだったため、2010年ごろから本格的に取り組むことにしたのです。
上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」