上皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

脳梗塞を予防する「左心耳」への処置が保険適用になった

天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 術後の心原性脳梗塞を予防するには、かつては血液を固まりにくくする抗凝固剤を服用するしか手段はなく、ずっと薬を飲み続けなければならない患者さんの負担は大きなものでした。また、薬で人工的に血液をサラサラにすると血が止まりにくくなるため、患者さんに胃潰瘍からの出血や交通外傷による内出血など、出血に関するアクシデントがあった時には重篤な状態になってしまうリスクが高いといえます。

 そのため、どうにかして心臓手術で脳梗塞を減らす方法はないものかと考えました。欧州ではすでに脳梗塞の予防のために左心耳を処置する動きがありました。また、ほかの専門家などからさまざまなアドバイスをもらい、血栓の75~90%が形成される左心耳に行き着いたのです。左心耳は、いわば盲腸と同じようなもので、取り除いてしまっても問題はありません。普段の心臓手術のついでに比較的容易に実施できるうえ、予防効果も明らかだったため、2010年ごろから本格的に取り組むことにしたのです。

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天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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