アンチエイジングとほぼ同時期に、アメリカの老年医学の専門家たちの間で「老年症候群(geriatric syndrome)」という言葉が使われ始めました。老化が進んだ人は、持病の有無にかかわらず、同じような健康上のトラブルを生じやすいことが、当時からよく知られていました。
たとえば日常生活での転倒や転落、風呂などでの溺水、食物による窒息や誤嚥(ごえん)性肺炎、ちょっとしたことでの骨折、認知機能の低下などです。それら一連の症状をまとめて、老年症候群と呼ぶようになったのです。
この言葉の誕生は、以後の老人医学に大きな影響力をもたらしました。それ以前は、老人の健康問題の多くが「年のせい」と簡単に片付けられていました。しかし老年症候群なら、医療の対象となり得ますし、予防や治療の可能性も出てきます。
アンチエイジングと老年症候群はよく似た概念です。あえて言えば、前者は主に現役世代の老化予防を目指しており、後者は高齢者の健康維持と介護予防を目指しています。
いまの日本は、定年も年金受給年齢も70歳(長期的には75歳)に引き上げられそうな情勢ですから、50代や60代にとっては、アンチエイジングのほうがより関心が高いでしょう。
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永田宏
長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授
筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。