がんと向き合い生きていく

年の暮れに届いた喪中はがきで頭に思い浮かぶ旧友との思い出

 電話の声は、意外とさばさばしていたように感じました。きっとS君をたくさん看病され、彼の「気ままさ」をたくさん支えられたのだと思います。

■がんはいつ制圧できるかとしつこく聞かれ…

 S君は何かと規格外のところがありました。あけっぴろげで、悩んでいるようなところを見たことがありません。ほら吹きのようなところもありましたが、いつも明るいのが私にはうらやましい性格に思えました。とりわけ、高校野球が好きでした。やたらと故郷の高校を自慢していました。

 学生時代、下宿は一緒ではありませんでしたが、日曜日になるとバットとグラブを持って、朝早くから野球に誘ってきました。私の下宿まで迎えにくるのです。数人が集まって、大学のグラウンドで練習をしました。彼はみんなが嫌がるキャッチャーをやってくれました。中には野球の理論とか、バットの持ち方とか、うるさく言うやつもいましたが、S君は一緒に楽しく汗をかきました。

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佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

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