がんと向き合い生きていく

年の暮れに届いた喪中はがきで頭に思い浮かぶ旧友との思い出

 S君は、あまり食べずに酒を飲みました。そして、田舎の自慢を繰り返し話します。日本酒が大好きでした。人柄はとてもいい男ですが、酒を多く飲み過ぎると目がすわった感じになって、同じことを繰り返し言ってきます。

「がんはいつ制圧できるか?」

 それをしつこく繰り返し、私は不愉快になったこともありました。ただ、喧嘩になったことは一度もありません。翌日にはすっかり忘れたごとく、いつもの明るい感じに戻っているのが不思議なくらいでした。

 卒業してからは、大学の研究室で骨髄の脂肪の研究をしていたようです。がん制圧にどこまで迫ったかは分かりませんが、牛の骨髄をたくさん集めて研究していると聞いたことがあります。

 ある学会でT先輩からこんなエピソードを聞きました。T先輩とS君がお酒を飲んで、寝台夜行列車に乗って某学会に出かけた時のことです。S君はT先輩に「駅が近づいたら僕が起こすから……」と申し出ました。それを聞いたT先輩は安心して寝たといいますが、目的の駅に着いてから起こされ、驚いて下着姿のまま旅行かばんと服を手に持って、駅のホームに飛び出したそうです。T先輩は「ひどい、ひどい」と言って、笑っていました。

3 / 4 ページ

佐々木常雄

佐々木常雄

東京都立駒込病院名誉院長。専門はがん化学療法・腫瘍内科学。1945年、山形県天童市生まれ。弘前大学医学部卒。青森県立中央病院から国立がんセンター(当時)を経て、75年から都立駒込病院化学療法科に勤務。08年から12年まで同院長。がん専門医として、2万人以上に抗がん剤治療を行い、2000人以上の最期をみとってきた。日本癌治療学会名誉会員、日本胃癌学会特別会員、癌と化学療法編集顧問などを務める。

関連記事