認知症治療の第一人者が教える 元気な脳で天寿を全う

物忘れや無気力の症状は「甲状腺機能低下症」のせいかもしれない

写真はイメージ

 一方で、少し古いデータではありますが、医療経済研究機構が2015年4月から2016年3月のレセプトデータを調査した報告によると、認知症の診断直後に抗認知症薬を処方された65歳以上の患者さんが、医療機関3万4492施設中26万2279例存在しました。

 その患者さんのうち、甲状腺機能検査実施率は約3割。つまりは、7割の患者さんが、「もしかして認知機能低下は甲状腺機能低下症のせいかもしれない?」と疑われず、検査を実施されていなかったのです。

 前回、「当初は認知症を疑ったが、実は別の疾患だったという症例を経験したことがある」と回答した医者が全体の約48%いた、という意識調査の結果を紹介しましたが、「お医者さんが認知症と診断したから、そうなんだ」とすぐに受け止めるのはいかがなものか、ということが分かってもらえるでしょうか? なんでもかんでも疑えばいい、ということではありません。しかし、たとえばがんであれば、医者の診断や治療方針に対して「本当にそうなのか」という疑問を抱き、自身で情報を集めたり、セカンドオピニオンを検討するケースは少なくないでしょう。

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新井平伊

新井平伊

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

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