「サル痘」が世界に感染拡大! ラクダ痘・天然痘の関係は…医療情報学教授が解説

サル痘ウイルスの顕微鏡写真(CDC提供・共同)

 というのも、サル痘は感染力が弱いうえに重症化のリスクも低く、テロに使うにしては効率が低すぎるからである。接触感染が主であるため、医療従事者などでない限り、感染の心配はほとんどない。致死率は、アフリカでは子供を中心に10%程度といわれているものの、先進国ではいまのところ1人も死んでいない。それに発疹もさほど酷くない。ネット上のサル痘の記事を見ると、全身が大粒の発疹で覆われた、悲惨な患者の写真が必ず出てくる。それらの大半は、実はサル痘ではなく、天然痘患者の写真である。サル痘では、多くの場合、発疹は全身でせいぜい20個程度までである。それにアバタが残る心配もほとんどない。

 日本では4類感染症(全数報告)に指定されており、患者は自宅療養も可能だ(ただしタオルや寝具を共有しないなどの注意が必要)。全治には数週間を要する。

 テロという点では、世界の研究者たちが恐れているのは、ラクダ痘(ラクダの天然痘)のほうだ。ラクダ痘ウイルスは、人の天然痘ウイルスともっとも近いウイルスなのである。

 いや待て、サルの方がラクダより人間に近いではないか──。そんな声が聞こえてきそうだが、サル痘ウイルスは、本来はげっ歯類、つまりネズミなどを宿主にしているらしい。たまたま不運なサルからウイルスが発見されたため、「サル」と命名されたに過ぎない。

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永田宏

永田宏

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

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