というのも、サル痘は感染力が弱いうえに重症化のリスクも低く、テロに使うにしては効率が低すぎるからである。接触感染が主であるため、医療従事者などでない限り、感染の心配はほとんどない。致死率は、アフリカでは子供を中心に10%程度といわれているものの、先進国ではいまのところ1人も死んでいない。それに発疹もさほど酷くない。ネット上のサル痘の記事を見ると、全身が大粒の発疹で覆われた、悲惨な患者の写真が必ず出てくる。それらの大半は、実はサル痘ではなく、天然痘患者の写真である。サル痘では、多くの場合、発疹は全身でせいぜい20個程度までである。それにアバタが残る心配もほとんどない。
日本では4類感染症(全数報告)に指定されており、患者は自宅療養も可能だ(ただしタオルや寝具を共有しないなどの注意が必要)。全治には数週間を要する。
テロという点では、世界の研究者たちが恐れているのは、ラクダ痘(ラクダの天然痘)のほうだ。ラクダ痘ウイルスは、人の天然痘ウイルスともっとも近いウイルスなのである。
いや待て、サルの方がラクダより人間に近いではないか──。そんな声が聞こえてきそうだが、サル痘ウイルスは、本来はげっ歯類、つまりネズミなどを宿主にしているらしい。たまたま不運なサルからウイルスが発見されたため、「サル」と命名されたに過ぎない。