「高齢者のがん治療」知っておきたい16のポイント 静岡がんセンター山口建総長が解説

 一方、85歳でも身体的、精神的に元気な患者さんであれば、負担の少ない手術を実施するなど、治癒を目指す治療を行うことがあります。

 がんの種類によっても違います。全身への負担が少ない皮膚がんや乳がんなどでは、80~90歳以上でも手術を実施し、術後の抗がん剤やホルモン剤の投与を慎重に判断します。一方で、消化器がんなど負担の大きな手術を実施するか否かは、より慎重に判断することになります。

■治療に耐えられるか否かは、どこを考慮?

 常に、治療による利益、不利益を判断します。治癒の可能性が高いと判断した場合、すでに確立されている標準治療が実施できるかを考えます。

 標準治療とは、患者さんが参加する臨床試験で、「他の治療法より有効性が高いこと」「治療効果などの利益が、副作用などの不利益を上回ること」などの科学的根拠が明らかにされた治療のことです。臨床試験は多くの場合、70歳代前半以下の患者さんを対象にしているため、75歳以上に関しては、科学的根拠は十分ではありません。そこで、担当医は、標準治療を念頭に、経験を踏まえて治療方針を定めます。集められるだけの臨床情報を駆使しても手術の実施に迷うような場合は、「Fファクター」で決めるという医師もいます。「F」は「face(顔)」の頭文字で、要は「顔つき」です。「立ち居振る舞い」も重要因子で、具体的には「自分の身の回りのことは自分でできるか」「同年齢の健康人と比べて同じように歩き、同じように階段を上れるか」「説明についての理解力は十分か」などがポイントとなります。

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山口建

山口建

慶応義塾大学医学部卒。国立がんセンター(現・国立がん研究センター)に勤務。内分泌部、細胞増殖因子研究部の部長などを歴任。1999年、同センター研究所の副所長、宮内庁の御用掛を兼務。静岡県立静岡がんセンターの設立に携わり、2002年、初代総長に就任し、現在に至る。著書に「親ががんになったら読む本」(主婦の友社)など。

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