ただし1点だけ違いがあります。組織血液型抗原は、各血液型の人の8割にしか発現しないのです。これを「分泌型」と呼んでいます。残り2割の人は、組織血液型抗原を持っていません(非分泌型)。正確には、より単純な糖鎖が結合しているのですが、ここでは「無し」としておきます。つまり組織血液型抗原で見れば、人間はA・B・AB・Oと、「無し」型の5つに分かれているわけです。
分泌型の人の全身に、組織血液型抗原が分布しているという事実は、感染症を考えるうえで重要です。ウイルスや細菌は、皮膚に取りついたり、気管や消化管の内壁に取りついたりして、感染を成立させます。その際、人の細胞の表面とうまく接着できるかどうかが、最も重要な問題になります。たとえば新型コロナウイルスは、ウイルス表面のSタンパク質と、人の気管細胞の表面に突き出ているACE2タンパク質がうまく結合して、初めて感染できるのです。そうでなければ、痰などで体外に排泄されてしまいます。コロナに限らず、病原体が感染するためには、こうした何らかの手がかりが必要になります。
血液型と病気